東京高等裁判所 昭和37年(ラ)545号 決定
(一) 一件記録によれば、東京地方裁判所執行吏浅野光重が抗告人の委任にもとづき大阪地方裁判所昭和三七年(ヨ)第三四三号仮処分申請事件の仮処分決定正本により昭和三七年二月二四日相手方の東京営業所において原決定(なお昭和三八年三月二五日更正決定)添付別紙(二)記載の物件について相手方の占有を解いて同執行吏の保管に付する旨の仮処分の執行をしたことは当事者間に争がなく、右仮処分決定は、原決定添付別紙(一)掲記の(イ)号図面に示すとおりの「上部枠組台(1)に軌条受(13)とラツク(14)とを備え同一寸法の桝目(5)(6)を設け上部枠組台(1)と別個に、内部文字盤(18)を装填出来る文字盤中枠(15)を設けて別個の文字盤中枠(15)を桝目(5)又は(6)に差替えるようにした写真植字機用」「分割差替式文字盤枠の既成品、半成品」を対象とするものであることが明らかである。
(二) (文字盤枠と文字盤中枠との関係について)
本件仮処分決定の対象とする物件は、右のとおり写真植字機用文字盤枠の既成品および半成品であるが、その文字盤枠は、(a)その「上部枠組台(1)に軌条受(13)とラツク(14)とを備え同一寸法の桝目(5)(6)を設け」、(b)「上部枠組台(1)と別個に、内部文字盤(18)を装填出来る文字盤中枠(15)を設けて」、(c)「別個の文字盤中枠(15)を桝目(5)又は(6)に差替えるようにした」構成を有する分割差替式文字盤枠であること、つまり、この文字盤枠は、その上部枠組台(1)の桝目(5)(6)に差替式に嵌合し使用される多数個の文字盤中枠(15)と一体の組になつたものであることが、仮処分決定の対象の表示自体から明らかである。
このことは、従来の写真植字機においては、上部枠組台にじかに縦横の桟を取りつけて多数の桝目を有する文字盤枠を構成していたため、他の書体の文字盤枠を使用する必要が生じた場合やこの桟中に装填してある例えば二組の異なつた書体からなる文字盤群の一方の書体だけを他の書体の文字盤と取り替える必要が生じた場合には、文字盤枠全体を他の書体を装填した文字盤枠と取り替えるかまたは文字盤枠から文字盤を一枚一枚取り外して他の書体の文字盤とはめ替えるかしなければならず、いきおい枠体上の主文字盤枠のほかに他の各種の書体からなる多数の予備文字盤枠を経費をかけて備えておくことになり、はめ替え操作等も非常に煩雑であつたところ、本件の分割差替式文字盤枠においては、上部枠組台(1)の桝目(5)(6)に適合し内部文字盤を装填できる文字盤中枠(15)を構成し、その文字盤中枠(15)を上部枠組台(1)の桝目(5)(6)に必要に応じ差し替えうるようにするとともに、異なる幾種類かの書体の文字盤(18)を一書体ごとにそれぞれ固有の文字盤枠(15)に収め用意しておき、ただ一つの上部枠組台(1)があれば、これを適宜差替え使用することが簡易正確かつ経費少なくできるようにしたものであることが、成立について争のない甲第四号証(実用新案公報)により認められ、このことからひいて、文字盤中枠(15)がもともと文字盤枠ことにその上部枠組台から分化したものであり、文字盤枠の構成部分をなしかつ一体として使用されるものであることを知りうることによつても明らかである。
したがつて、文字盤枠自体のほか文字盤中枠(15)も、本件仮処分決定においてその対象物件に含まれているものと認めるのが相当であるから、仮処分執行当時、文字盤中枠a1a2a3およびb1b2b3b4b5が文字盤枠ABに使用されまたはされうべきものとして執行の場所に存した本件においては(この点は、一件記録ことに原審における検証の結果により明らかである。)、本件仮処分の対象物件に該当するものとしてこれらに対しされた執行には、この点について違法はない。
(三) (文字盤枠Bの上部枠組台(1)における桝目(5)(6)の寸法の同一性について)
本件仮処分の執行物件中文字盤枠Bの右側桝目(ラツク側に対し右側、以下同じ。)と左側桝目とがその寸法において原決定添付別紙(二)記載のとおり、すなわち、前者が後者より上端で〇・三ミリメートル、中間で〇・二ミリメートル、下端で〇・三五ミリメートル長い差異があり、その右側桝目には文字盤中枠b1(検乙第一号証の二)を装着できるが、左側桝目にはこれを装着できないことについては、当事者間に争がないことが記録上明らかである。
一方、本件仮処分決定においては、上部枠組台(1)に設けられる桝目(5)(6)は同一寸法であることが表示されている。そして、この桝目(5)(6)が同一寸法に構成されているのは、文字盤中枠(15)を桝目(5)(6)にできるだけ容易に彼此差し替えかつ適合させやすくしようとするに出たものであることが(二)の項に認定の事実および前掲甲第四号証により推認でき、なお、前示文字盤枠Bの左右桝目における大きさの差は、何ら特別の作用効果を期待したものではなく、もつぱら抗告人の権利にかかる実用新案権(前掲甲第四号証)の効力を免れる迂回の手段を講じたものに過ぎないことが、原審における証人森沢豊(相手方会社の専務取締役)の証言および一件記録により明らかである。ところで、左右桝目の寸法の同一性はこれを具備しかつ文字盤中枠も桝目に対応した寸法を正確に有していることがより好適であることはいうまでもないが、たとえその寸法に多少の差異があつても、右目的の趣旨に徴し、中枠の左右桝目に対する相当な適合がえられさえすれば、なお同一の寸法というに妨げなく、たとえば、当業者が通常簡単かつ容易にとりうる適宜な調整を施せば操作中文字盤中枠をいずれの桝目にも適合させ使用できるような範囲の寸法上の微差は、それが存する場合でも、なお「同一寸法の桝目」の要件を具備しているものとするのが相当である。このことは、本件の文字盤枠Bの各桝目自体の寸法およびその桝目と文字盤中枠b2b3b4b5との適合上の寸法についてみてもすでに必ずしも正確でなく中枠の桝目に対する適合の点に光学的精密さがしかく厳しく要求されているとも認められないことなどからも、了しうるところである。
本件仮処分の執行にかかる文字盤枠Bの左右桝目における寸法上の差異は、前示事実および前掲検証の結果に徴し、右の微差に過ぎず、桝目の寸法の同一の要件を欠くにいたらせるものとは認められない。なるほど、文字盤中枠b1は、そのままでは、文字盤枠Bの右側桝目に嵌合するだけで、左側桝目には嵌合しえないけれども、その余の中枠b2b3b4b5についてはすべて文字盤枠Bの左右の桝目のいずれにも、一、二わずかにゆるい嵌合を示す組合せがあるとはいえ、適合することが前掲検証の結果により認められ、すでにこれらにより同一寸法の桝目というに妨げない以上、たまたま中枠b1だけがわずかに大きく桝目の一方に嵌合しえないとしても、この一事をもつて文字盤枠Bについて同一寸法の桝目の要件を欠くにいたらせるものとすることはできない。しかも、この場合、必要に応じ、いくぶん中枠b1を小さくするなど桝目に嵌合しうるよう調整し、現に桝目に適合しているその他の中枠程度のものに合わせることは、当業者の容易にしうることが明らかであり、さらに、本件仮処分が既成品および半成品を対象としている趣旨に徴しかつ執行吏において執行を行う場合の事態を考慮するときは、右は、当然のことということができる。
なお、文字盤枠Bの右側桝目の梁に中枠締付用ネジが設けられるようになつている点も、写真植字機用文字盤枠における迂回のための単なる付加的構造に過ぎないことが、他方の桝目についてはこのようなものが設けられていないことからもうかがえるから、この点の差異をもつても右物件が本件仮処分の対象に属しないものとすることができないことはいうまでもない。
(四) (桝目(5)(6)における文字盤中枠の差替えについて)
本件仮処分決定の対象は、(二)の項において判断したとおり、従来の上部枠組台にじかに縦横の桟を取りつけて多数の桝目を構成した文字盤枠から、その一部分を文字盤中枠として分化させこれを適宜差し替えうるようにした文字盤枠であり、その中枠の適宜の差替えが可能である構造に主眼があるが、ただ、「同一寸法の桝目(5)(6)」の要件を具備すべきものである以上、中枠は桝目(5)(6)のいずれについてもせいぜい(三)の項に示した程度の調整を施せば差替えが可能であるべきであり、本件においては、結局それは桝目(5)(6)の寸法の同一の要件と表裏をなすものであるから、中枠差替えの着脱自在、適宜嵌合についても、前示桝目(5)(6)の寸法の同一について(三)の項で判断したところに対応して考えればよいわけである。したがつて、本件仮処分の執行にかかる文字盤中枠が右桝目(5)(6)に対する差替え可能の要件を具備するものと認むべきものであることは、(三)の項に判断したところから、おのずから明らかである。
右のとおりである以上、原決定添付別紙(二)の物件に対してした本件仮処分の執行は、結局かしがないものということができるから、そのうち文字盤中枠a3b3b4b5および文字盤枠Bについてした執行を許すべきものでないとした部分の原決定主文第一項は、失当として取消を免れない。